生成AIに依頼するときは、足りない条件を追加しながら何度でも直せる。 返答がずれても、こちらの言い方を変えればよい。
この感覚を仕事へ持ち込むと、厄介なことが起きる。 相手が意図を察し、修正し、すぐ改善してくれることを、無意識に期待してしまう。
私は同僚とのやり取りがうまくいかなかったとき、自分の依頼が「仕様」だけになっていたことに気づいた。 何をしてほしいかは伝えた。 しかし、それが誰のどんな困りごとを減らすのか、どこまで自分で判断してよいのかは渡していなかった。
AIは対話の相手であり、責任の主体ではない#
生成AIは、入力に対してもっともらしい候補を返してくれる。 対話を重ねて出力を寄せる使い方は、とても有効だ。
けれども、チームの相手には仕事の優先順位があり、経験の差があり、失敗したときに引き受ける責任がある。 同じ短い指示でも、AIと人では受け取る条件が違う。
「前にも言ったのに」は、依頼としては情報が足りないことが多い。 前提を共有したつもりだっただけかもしれない。
依頼には目的と境界を添える#
人へ頼むとき、私は次の三点を一緒に渡すようにしている。
- 目的:この作業が、誰のどんな判断や体験につながるのか。
- 完了条件:どの状態なら、次の人が受け取れるのか。
- 相談してほしい境界:迷ったときに自分で決めてよい範囲と、止めて確認してほしい範囲。
たとえば「議事録をまとめてください」だけでは、要約の粒度も次の行動も曖昧なままである。 「顧客が決める必要のある点と、開発側が確認する点を分け、当日中に確認できる状態にしてほしい」と伝えれば、仕事の目的が見える。
相手の答えが期待と違ったときも、能力を評価する前に、渡した三点が十分だったかを確認する。
速さより、協力が続く形を選ぶ#
AIを使うほど、即座に整った文章や案に慣れていく。 その便利さを、人に対する最低限の配慮まで薄くする理由にしてはいけない。
人と仕事をする価値は、出力を受け取ることだけではない。 異なる経験から別の見方が出て、次の判断を一緒に引き受けられることにある。
依頼を丁寧にするのは、長い前置きのためではない。 相手が考えられる余地と、安心して相談できる境界を渡すためだ。 AIを使って仕事を速くするほど、その設計は人間側に残る。



